『校報』第115号(ブログ版・その2) 校長挨拶「教育観のパラダイム・シフト」

教育観のパラダイム・シフト                                  校長 黒畑 勝男



 大胆に変わることや180度転換するように変わることをパラダイム・シフトと言いますが、ウィキペディアによれば、厳密な定義がなく狭義的に「主流だった古い考え方に代わって新しい考え方が主流になることを指すこともあれとありました。パラダイムのもともとの意味の「規範」や「範例」が拡大解釈されて、考え方、常識、旧態依然とした考え方などの意味合いでも使われていると説明されていました。
 1970年前後、日本の社会が高度経済成長期の中にいるころ、国民が一億総中流と自称した時代にははっきりとしたパラダイムがあったと言えるでしょう。経済成長と並行して教育産業も隆盛となり教育観の中にも支配的な考え方が形成され、教育観のパラダイムも定着しました。今なお支配的なように感じます。私は時折、進路を考える時の考え方を「進路方程式」と呼ぶのですが、今はこの進路方程式が進路選びの全てには当てはまらない時代になってきていることを真剣に考えるべきだと感じます。
 将来の就職先、安泰の人生を夢見て学校を選ぶという進路方程式で歩み始めて順風満帆だったはずが、突然くるったという例を社会全体に見てきています。この10年での代表的な例は家電業界の環境の変化です。2010年代の激しい変遷は、進路方程式が必ずしも未来を保証するものではないことを語っています。では、何を以って考えたらいいのか。これが今はますます見えません。これまでの価値観や考え方を揺るがす変化が生活のいたるところに現れ、スタンダードが見えなくなり始めてさらに難しいのかもしれません。
 ありきたりの話題になりますが、子どもたちの進路を考える上でしっかりと意識すべき三つのことについてあらためて触れたいと思います。
 一つめは、AI(人工知能)とロボットの急速な発達です。生活の中への浸透とそのスピードです。パソコンが家庭に普及して20年、スマホが今の形で一般に普及し始めて約10年。この間に人員削減を加速するAIとロボットの実用化が進みました。最近の顕著な例の一つは、みずほ、三井住友、三菱東京の3つのメガバンクの動向です。今年度は一括新卒採用が合計でおよそ3200名でしたが、2019年度採用では3行合計で30%減というニュースが4月に流れました。3行の業務改善方針が社会に示すのは、AIがRPA(Robotic Process Automation)として働き手となり、バック・オフィスへの浸透が加速、拡大するということです。ICT、Io T、通信速度技術の発達で店舗やオフィスの形態が変わる、企業の業態も変るということがいよいよ現実になってきたということでしょう。
 二つめは、少子化で国内の生産労働人口が減少し、予想もしない変化がおこるだろうということです。一つめのRPAの進行と考え合わせると労働人口が減少でも数字上ではつじつまが合う気がしますが、業種間での差やいびつな形で労働力不足が起こることがすでに予想されています。今、就職環境は、2017〜19年、20年?は就活の売り手市場が続くと言われています。これは1950年代生まれの大量退職が大きな誘因です。しかし、業種間で大きな差異があることは周知のとおりです。それ以後については、高齢者比率が高まれば消費も変わり、国内消費は次第に減衰するという見方が常識的と言われています(…ただし、純粋な外貨収入となる観光の増加分は別ですが)。日本経済は生産性の乏しい構造へ進むと予想され、企業活動の国内での縮小から、今の全ての職種で雇用の活況が続くとは言い難いでしょう。さらに誤解を恐れずに敢えて言えば、大学卒の選択にはない職業の選択も大学卒者に起こるかもしれません。AIやロボットによる代替でも間に合わない人手不足の実相が色々とあらわになる気もします。
 三つめは、二つめと大いに関係があることです。日本国内のグローバル化です。子どもたちにとってのグローバル化とは、近未来の国内就職環境の国際化する競争とその二次的影響でしょう。この10年間、日本企業がアジア圏での活動拠点を増やせば増やすほど、日本への留学生が増えています。単年度での数値では2017年度は海外から27万人の留学生がいます。卒業後、国内に残留して日本の企業に正式に就職する学生は年々増えています。2016年度で1万6千人。しかし、この数は希望者の30%にすぎず、2016年の経済財政諮問会議は「日本再興戦略2016」として、それを50%まで引き上げると宣言しました。文科省はこれを受けて各大学に対し、留学生への積極的な就職支援を求めています。外国人労働者に関するニュースでは「実習生」の制度が話題になっていますがそれ以前の国内のホワイトカラーの就職環境にじわじわと進むグローバル化にもっと注視すべきでしょう。
 また、海外からの観光客も年間3千万人を超える時代となり、観光関連産業でのグローバル人材の登用はもっと進むでしょう。前職である時、生徒から進路相談を受けた際に、「特に観光関連と言うのなら、日本の国内の大学の観光学科で学ぶよりは、マレーシアや台湾などの大学で観光学を学んでみるとか。そういう分析と勇気があなたの未来には必要ではないですか?」と答えました。「未来に対して必要な分析と勇気」がポイントです。第 115号 校 報 ( 2 )
 近未来に起こる変化を想像すれば、進路を考えるときには、個々の夢やそのための道の内容、そして適性を考えることを最優先にすべきです。そして従来の進路方程式を個別に、冷静に見直すべきです。進路方程式は一律には当てはまらないということです。もし、夢や希望がまだ見えないのなら、少なくとも考えるための進路方程式での進路を探すべきです。そういう意味で、教育観でこそ生徒の個を見つめる方へのパラダイム・シフトが必要と感じます。しかし、進学を考えるとなると慣れ親しんできた進路方程式は簡単には捨てられません。また、目的が明確で進路方程式をしっかりと当てはめての考察もあるでしょう。
 しかし一方で、日本の企業が大いに貢献しているアジア諸国の成長と、経済交流活動を支える人材の育成の実態を知ると、日本とは大きく違う学校教育のグローバル・スタンダード化が大きな脅威に感じます。過去の進路方程式の単純な適用は見直す必要があります。特に、文系を志望する子どもたちに対して伝えたいことです。自分の夢や希望を見つめ何をどうやって身につけていくべきか、あるいはどうやって夢を探すかを考えてほしい。学問領域的にも人生時間的にも、広く、遠くを見つめ、眺めてほしい。そして、誰もが最低限として、少しでも高い英語力の習得を必須にしてほしいと思います。
 10年後、「グローバル化」という言葉は死語になっているかもしれません。コミュニケーション能力を持ち、主体的に行動する力や個として決断する力が求められる時代が来ます。未来は主体性と協調する心、それらを発揮する力が同時に求められる時代でしょう。未来社会は、今持っている感覚から切り離して思い描かなければなりません。それは、今はまだ生徒である子どもたちの10、20年後を考えるための新しい進路方程式は、子どもたちにとっては、その先の長い自分の人生を考える進路方程式に繋がるからです。

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 朝、登校する生徒たちと挨拶をします。夕方、法人本部から学校へ戻る途中、すれ違う生徒たちと挨拶をします。皆、屈託のない笑顔を見せてくれます。40年以上も昔となった自分の中高時代を懐かしく思い出します。笑顔…。
社会は、その時代とは比べ物にならないくらいまで複雑になりました。笑顔を見るたびに感じるのは、愛すべき
一つ一つの命の輝きです。難しくなった時代をしっかりと歩んでほしい。今朝もその笑顔に熱く思いました。



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