「民主政治と憲法」杉田敦先生講演会

DSC05965.JPG

5月の旅行週間中の2日間、学校に残る6年生は「選挙と政治に係る講演会」を行いました。
1日目は5月11日(水)、18歳選挙権についての講演会でした。
横浜市金沢区の選挙管理委員会の皆さまにご講演いただきました(記事はコチラです)。
2日目の5月12日(木)は、「民主政治と憲法」と題した講演会を行いました。
講師は杉田敦先生(政治学者・法政大学教授)です。
本ブログでは、その2日目の講演会について紹介いたします。

DSC05963.JPG

  ◆杉田敦先生プロフィール
    主な著書に『権力論』、『境界線の政治学・増補版』(いずれも岩波現代文庫)、
    『政治的思考』(岩波新書)、『デモクラシーの論じ方』(ちくま新書)、
    『憲法と民主主義の論じ方』(長谷部恭男氏と共著、朝日新聞出版)など。

以下、講演の要約を記します(文責:KGMブログ)。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

1.はじめに
今回の講演では、複雑になった世の中を考える手掛かりとしてお話をしたいと思います。
タイトルは「民主政治と憲法」としました。
「民主政治」について、多くの人はとても大事なものとは理解しています。
もちろん「民主政治」は大事なものです。
ですが「民主政治」は、ただ大事にしていればそれでよいというものではありません。
また「憲法」との関わりも決して簡単なものではありません。
なぜなら、「民主政治」と「憲法」は必ずしも調和するものではないからです。
そして世の中が複雑になったせいで、それらがうまく機能しない面も生じてきました。
今日はそのことについてもお話ししたいと思います。

DSC05967.JPG

2.民主主義と立憲主義
多くの国の人々は、自分たちの国こそ「民主国家」だと言っています。
ではその実態はどうでしょうか?
「民主主義」とは、みんなで政治を行うこと、私たちみんなで決めていくということです。
実際に選挙において、私たちはみんなで議員を選んでいます。
つまり、私たちはみんなで議員の人事をやっているということです。
選挙で投票することについて、私たちは公務(議員人事)を行なっているという理解が必要です。
投票日はみんなが「公務員」となって、議員の人事を決定する日なのです。

「民主政治」というのは、みんなで私たちの将来を決めるということです。
では「憲法」とは何なのでしょうか。
憲法は「最も上位の法律」、「法律の親玉」というだけのものではありません。
民主政治を行うにあたっては、その外側の枠をあらかじめ決めておく必要があります。
この枠を超えて政治をやってはいけません、という枠を。
民主政治は大切ですが、憲法という枠を超えたら違憲であり、許されないのです。
このように、民主政治と憲法の間には緊張関係があります。
憲法は民主政治を制限する「枠組み」でもあるのです。
これまで枠となっていたものを変えようとすると、憲法問題が発生します。

民主的な選挙で選んだ個人や政党に反対するのは民主的でない、という議論を耳にすることがあります。
しかし、民主主義的な手続きで決定したらなんでもいい、というわけではありません。
車にアクセルとブレーキがあるように、政治にもアクセルとブレーキが必要です。
このように、政府の権力が憲法の制限の下におかれているとする考え方を「立憲主義」といいます。
日本は立憲主義と民主主義を両立させる「立憲民主主義」です。
日本が立憲主義を採っている以上、政治は自分を制限する、自己制約的なものです。
その民主政治を制約するものが憲法なのです。

現在、憲法第96条の改正問題が表面化しており、参議院選挙の争点になる可能性もあります。
96条は、憲法改正のための手続きについて定めています。
今問題となっているのは、その手続きのハードルを下げて、変えやすくすべきかどうかです。
もちろん、憲法は民主主義的な手続きをふめば、改正することができます。
けれども、憲法をしょっちゅう変えると憲法と法律の違いや区別がつかなくなってしまいます。
立憲主義である以上、憲法は自己制約的な機能をもたなくてはなりません。
軽々しく憲法を変えるようでは、ブレーキという憲法の機能が失われてしまうのです。
諸外国を見渡すと、たとえばフランスでは憲法改正がよく行われています。
そのことを理由にフランスを「民主主義大国」と呼ぶ人もいます。
けれどもフランスについては、民主主義は強いが、立憲主義は弱いとも考えられるのです。
立憲民主国家は、「立憲主義」と「民主主義」との緊張関係の中にあるのですから。

DSC05969.JPG

2.グローバル化と民主主義
いま世界を見渡すと、民主政治はうまくいっているでしょうか?
アメリカ大統領選挙での「トランプ旋風」をどのように見るべきでしょうか?
「大阪都構想」で盛り上がった「橋下現象」をどのように見るべきでしょうか?
これらの旋風・現象に共通にみられるのは、問題を単純化して捉えようとすることです。
それらはよく「ポピュリズム」的と言われます。
もちろん、人びとの支持を得ることは民主政治にとって大切です。
しかし、最近は問題を単純化する指導者が人気を得る傾向にあります。
「こうすればうまく行く」、「外国人が全部悪い」といった具合です。
しかし世の中は複雑になっており、そう単純には捉えられないのです。

グローバル化とは、カネ・ヒト・モノ・情報が国境を超えて大きく移動することです。
グローバル化によって、政治は大きく変わってきています。
特に政治的解決能力が低下してきているという点が挙げられます。
例えば雇用問題です。
海外との競争で、工場が外国に移ってしまうのを、なかなか止められません。
グローバル化が進展すると、カネの移動が激しくなり、国内の財政が悪化していきます。
最近のニュースで、タックスヘイブンによる租税回避の問題が取り沙汰されています。
お金持ちや大企業ほど、税金を払わない。
その結果、国の財政は苦しくなり、国のサービスが悪くなってしまいます。
財政の硬直化は、財政の機能を低下させ、政治をやりにくくさせていきます。
また、行政の機能低下は政党政治への不満をつのらせていきます。
現代の民主主義と政治はグローバル化のなかで捉える必要があります。
世の中は複雑になり、民主政治は機能しにくくなってきています。
私たちはそのような側面を捉える必要があります。

3.いくつかの具体的な問題
政治にかかわる、いくつかの具体的な問題について考えてみたいと思います。
マニフェストや公約は政党政治を活性化させるものと考えられてきました。
しかし、野党にとってはマニフェストで数字(データ)を出しにくいという点があります。
国のデータを扱う官僚は基本的には与党のために働くからです。
したがって野党は公約に掲げるために必要な数字を得にくいのです。
そのため、マニフェストは必ずしも政党政治を活性化させるとは言えません。
さらに、公約を掲げることで議会が形式化してしまうという面も挙げられます。
予算審議がその一例です。
公約があるために、議会審議で提案の修正を図る機能が失われ、議会が形式化してしまうのです。
公約は大事ですが、審議を形骸化させず、議会で意見を闘わせ、修正を図ることも重要なはずです。

次に、一票の格差問題はどうでしょうか?
そもそも国会議員とは誰の代表なのでしょうか?
原則として国会議員は全国民の代表であって、選挙区の代表でありません。
しかしながら、選挙区である地域代表の側面がないといえるでしょうか。
確かに一票の格差には問題があります。
しかし、格差解消だけを追求していくと、人口の少ない地域の議員は減らさなくてはなりません。
政治が大都市の有権者と議員だけで決定されてしまうことにもなりかねません。
それでは地域の問題が取り上げられることはなくなってしまいます。

さらに、政治全体の中での選挙というものの位置づけを、どう考えたらよいでしょうか?
もちろん選挙は大事ですが、選挙だけがすべてなのでしょうか?
デモや抗議活動も政治であることを忘れてはならないと思います。
民主政治の先進国ではデモや抗議活動がよく起こっています。
それは自分たちの意見表明であるからです。
選挙があるのだから、デモがあるのは良くないと考えるのは間違いです。
選挙で勝った与党に自由にやらせるのが民主政治だという考え方があります。
もちろん選挙は大事ですが、選挙にも欠陥があります。
なぜなら、選挙では、あらゆる問題についての民意が反映されるわけではないからです。
選挙で争われる政策はいろいろあります。
例えば、景気(経済)、雇用、福祉、教育、外交、安全保障、憲法などです。
政策はいろいろあり、それに対する判断の仕方や優先順位の付け方も人によって異なります。
景気(経済)を優先して判断する人もいれば、福祉を最優先と考える人もいます。
また自分が投じた一票も、政策のすべてにおいて支持している一票ではありません。
自分の判断・優先順位において一票を投じているのです。
その結果、当選した議員でもある面では支持できるが、他の面では支持できないことも生じます。
つまり、選挙ではあらゆる民意には応えられないのです。
選挙がすべてではないのです。

4.質疑応答から
「政治的課題をどのように見定めていけばいいのか」という質問が出されました。
今日話してきたような民主主義や政党政治は、当然「政治的課題」を含んでいます。
けれども「政治」はどこにでもあるものと考えられます。
例えば学校の中での「政治」を考えてみてはどうでしょうか?
学校で問題になっているものにイジメがあります。
イジメは政治の問題の一つです。
人と人との間に生じる問題は政治の問題と考えることができます。
そうであるならば、その人と人との間の関係を変えていくことは政治的な課題となります。
イジメをなくすことも政治的な課題です。
政治は議員と呼ばれる人たちだけがやっていることではありません。
政治はいろいろなところにあり、政治的課題もたくさんあるのです。

DSC05971.JPG

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

講演会は90分の時間設定をしており、杉田先生には時間をめいいっぱい使ってご講演いただきました。
政治学の第一線で活躍なさっている先生のご講演は、示唆に富みまた知的好奇心をかきたてるものでした。
6年生にとってはとても大きな知的刺激となったと思います。
杉田先生におかれましては、お忙しいなか本校6年生のためにご講演の労をとっていただきました。
この場で改めて御礼を申し上げます。
ありがとうございました。

なおこの講演会を実施するのあたっては、学年では昨年度の5年生から準備を進めてきました。
6年生になってからは、講演会の事前学習として、杉田先生の論稿をホームルームの時間を使って読みました。
またそれに対して、自らの政治的課題と考えるテーマに関して小論文も書きました。
また講演後の学習として、この講演会の感想文を書き、各クラスでその発表も行いました。
選挙権年齢が18歳に引き下げられ、高校生であっても政治と無関係ではいられません。
むしろ私たちみんなの政治的課題について、自分の考えを深めていかなくてはならない年齢になりました。
そして実際に投票権をもつ者は、自分たちの将来に相応しい個人・政党に票を投じることも求められます。
6年生は2日間の講演を通して、政治と選挙について考えを深めるとてもよい機会が与えられたことと思います。

◆6年生「政治と選挙の係る講演会」関連記事
関東学院六浦高校模擬選挙 選挙公報 
6年生講演会「選挙ノススメ 〜 一から学ぶ選挙の仕組み 〜」
「民主政治と憲法」杉田敦先生講演会 ※本記事



calendar

S M T W T F S
   1234
567891011
12131415161718
19202122232425
262728293031 
<< January 2020 >>
selected entries
categories
archives
profile
search this site.
others
mobile
qrcode